雪国ならではの生活の知恵

信濃大町の冬は厳しく、畑は雪に覆われて、野菜が採れません。そこで、秋の終わりから、様々な保存食が作られてきました。それぞれの家庭の味を伝える野沢菜漬け、一年で一番寒い大寒の頃に作られる凍り餅や凍み大根、冷涼な気候に育まれた上質の味噌や醤油などの発酵食品、そして稲作に適さない山間地で発達したおやきをはじめとする粉食など、信濃大町の食文化には、命をつなぐ生活の知恵、生きる力が詰まっています。

漬物「野沢菜漬・他」

長さ50~60cmもある野沢菜を洗う「お菜洗い」はこの地方の初冬の風物詩。昔は各家庭で40~50kgもの野沢菜を漬け、野菜が採れない冬の間中、大切に食べていました。野沢菜漬けは親しみを込めて「お菜」や「菜っ葉」と呼ばれ、今も冬の食卓に欠かすことができません。各家庭によって味が違い地域の味であると共に、家庭の味、母の味を伝える長野県の代表的なお漬物です。毎年11月頃には、昔ながらの方法で、温泉の湯で野沢菜を洗って漬け込む体験イベントが、大町温泉郷で行われています。

凍結乾燥「凍み大根・凍り餅」

冬の寒い日の朝、大町の人は「今朝はいい凍みだったいね」といいます。この凍みる寒さを活かして作る保存食が、凍み大根や凍り餅。寒の入りと共に作業が始まります。軒端に吊るされた大根やお餅は、夜凍結し、昼に溶けることを繰り返しながら乾燥していき、最後にはすっかり水分が抜けてフリーズドライになるのです。寒暖の差と風通しのよさが必要なので、これを作っている間は、寒さも喜びになるといいます。厳寒の地で生活する人々の知恵から生み出された保存食です。

凍み大根

秋に収穫された大根は土の中に保存され、寒中に掘り出し、まるごと、あるいは適当な大きさに切って茹でたり蒸したりしてから寒さにさらし、乾燥させて作ります。大根はカリウム、鉄分、マグネシウム、食物繊維は高血圧を改善する効果があるとされていますが、凍み大根は生大根に比べて、それら栄養素の数値がかなり高いとされています。

凍り餅

一年中で最も寒い1月に、お餅をついて、和紙にくるんで水に浸し、軒に吊るして作ります。厳しい冬の寒さと乾燥した気候を活かして作られている凍り餅は、農家が農閑期に作り置きしていた保存食です。栄養価も高くて消化もよいので、病中病後の食事や離乳食として昔から親しまれてきました。その軽さから、登山の携行食にもおすすめ。そのままでも食べられますが、水に浸して熱を加えると簡単にお餅に戻ります。

発酵調味料「味噌・酒粕」

北アルプスの麓に位置する信濃大町の冷涼な気候は、夏場でも平地より気温が低く、発酵食品の熟成に最適な環境だと言われており、某大手味噌会社が最高級天然醸造味噌蔵があるほどです。
また、酒米栽培の適地であり、清涼な水にも恵まれている信濃大町は酒蔵三蔵を有する日本酒の町。酒造りの過程でできる酒粕には、ビタミン類、炭水化物、アミノ酸等が豊富に含まれていて、体を温める効果がある栄養満点の発酵食品です。

粉食文化「おやき」

おやきは、信州の昔ながらの郷土食です。傾斜がきつく水田に適さない山間地では、そば・麦などの粉食が、米に代わる主食でした。季節の野菜の味噌炒めほか、切り干し大根やおから、漬物など、なんでも具になり、作ってさえおけば手軽に食べられる優れものです。作り方もいろいろで、囲炉裏の灰の中で蒸し焼きにしたり、焙烙(ほうろく)で焼いたり、せいろで蒸したり、地域や家庭によって様々な味が伝わります。大町市八坂地域では、昔からの製法で作られた希少な灰焼おやきを食べることができます。